コーラ白書
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一昔前まで斜陽と言われたコーラ飲料が、この数年で復活を果たした。飲料市場で唯一成長を見せる炭酸飲料市場は、いまやコーラが牽引していると言われるほどだ。

このトレンドをうけて飲料各社は春ごろからコーラを相次いで投入。アサヒやキリンなどの大手が参入する一方で、地方色豊かなローカルメーカーのコーラも立て続けに発売。4月から8月までの5カ月間に9種類の新製品が登場する、まさに群雄割拠の様相を呈している。

今回は2010年夏に発売されたコーラを検証してみる。

トリガーは不況?


何故この不況の時代にコーラが売れるのか。実はこの不況こそがブームの引き金になった可能性が高いのだ。

アサヒ飲料の調査によると、不況時には「甘め」「嗜好性の高いもの」が売れるという(註1)。消費者は節約を強く意識すると、お金を出すなら家で作れないものを購入する傾向が高まる。すなわち不況下ではミネラルウォーターや緑茶に替わってコーヒーや炭酸飲料が売れるのだ。

炭酸飲料の中でも特に刺激感の強いコーラ飲料はこの不況による「恩恵」を受けやすく、飲料市場でコーラが一人勝ちする原動力になっていると考えられる。事実、今年のコーラには強炭酸や強フレーバーを謳うものが多い。またコーラ躍進の裏でミネラルウォーターが大きく売り上げを落としている点もこの説を裏付ける。

 

ゼロブームによる「空隙」

今年の新製品の特徴として、糖類を使ったレギュラーコーラ(註2)が多い点が挙げられる。ゼロカロリーコーラが躍進したここ数年のトレンドとは明らかに傾向が異なる。

この理由として、ゼロカロリーブームの裏でレギュラーコーラ市場が手薄になったことが考えられる。

サントリーがペプシと提携した97年以降、国内におけるコカ・コーラとペプシの競争が激化。互いに巨額の宣伝費を投じた「コーラ戦争」と呼ばれるこの時期、他社がコーラ史上に参入することは容易ではなかった。結果レギュラーコーラ市場はコカコーラとペプシの寡占状態となった。

しかしここ数年のトレンドの変化で主戦場はゼロカロリーへとシフトすると、るサントリーはペプシブランドの生き残りをかけてNEXのプロモーションに集中。ペプシの販促を事実上放棄した結果、レギュラーコーラ市場の参入障壁が低下した。

ゼロカロリーコーラ市場は近年二桁成長を見せるものの、2010年時点では市場全体の4割に満たない。キリンとアサヒはこの機会を見逃さず、6割超を占めるレギュラーコーラのマーケットに打って出たのだ。

 

提案型コーラの登場

またもう一つの特徴として、これまで飲まれなかった年代やシチュエーションでの消費をユーザーに「提案する」タイプのコーラが見られる点がある。

アサヒ飲料のグリーンコーラは健康志向を謳う一方で甘さを控え炭酸を強化することで、20−30代の消費者への訴求を強化。これまで炭酸をあまり飲まなかった世代の取り込みを狙う。また日本コカ・コーラの新製品「コカ・コーラゼロフリー」はゼロカロリー・カフェインフリーながら刺激感を高め、大人が就寝前に飲む新たなコーラのありかたを提案している。

面白いところではサントリーのペプシのストロングショットがある。この商品は炭酸とカフェインを強化する一方で容量を190mlに抑え、コーラによる手軽な気分転換を提案する。このタイプの清涼飲料は北米のRed Bull Energy shotがあるが、国内では初の試みだ。

しかし新たなスタイルを提案するコーラが必ずしも思惑通りにいくとは限らない。例えば1970年代に米ペプシコが発売した朝食用コーラ「PEPSI AMはコーヒーの代替にはなれず、単年で姿を消した。

今年の提案型コーラが消費者のスタイルを動かし新たな市場を創造できるのか、注目したい。

 

バオバブの苦心

今年話題となったのが、サントリーの期間限定ペプシ「ペプシバオバブ」である。これまでキュウリやシソなど型破りなフレーバーで話題性の高い限定ペプシだが、今年は「そもそも味が想像できない」と例年以上の話題を呼んだ。

サントリーが今年バオバブを選んだ理由については諸説あるが、信憑性が高そうなのがサッカーW杯南アフリカ大会への乗っかり。スポンサーでないペプシとサントリーは、W杯に関連した商品を作ることができない。そこで、アフリカを連想させるフレーバーとしてバオバブが選ばれたというのだ。それならパッケージのサバンナやキリンのイラストも納得がいく。

ちなみにバオバブの本場はマダガスカル島で、アフリカには1種類しか自生していないらしい。またバオバブの実には酸味の強い清涼感のある甘さがあるそうで、ペプシバオバブはあくまで「バオバブをイメージした」味ということのようだ。

 

活性化するコーラ市場

今年4月以降に発売された新製品はなんと9種類。多くのメーカーが多種多様なコーラを投入されたことでコーラ市場そのものが活性化した。そして思わぬシナジーが生まれる例もある

グリーンコーラとペプシバオバブが発売された5月25日、イオンは一部店舗に両コーラの特売コーナーを設置した。このコーナーには「新発売!コーラ対決 あなたはどっち!?」と銘打たれた写真入のポスターが掲げられ、山積みにされたコーラの前で多くの買い物客が足を止めていた。

競合コーラ同士のコラボ企画は非常に珍しい

一方ローカルの清涼飲料メーカーからもコーラが発売されている。既成概念にとらわれない地方色豊かなコンセプトで話題を呼んでいる。

静岡県の木村飲料は国産緑茶を使用した「しずおかコーラ」を5月に発売、話題となった。濁りのある緑色の液色が特徴で、そのまろやかな味わいは普段コーラを飲まない人にも好評だ。

「熊出没注意」で有名な北海道のクリエイティブコンパスからは、宗谷岬の塩を使った「宗谷の塩コーラ」がリリースされた。薄いブルーの液色と後味にのこる塩の風味はかなり新鮮だ。

大手の参入により市場が活性化し、コーラのすそ野が大きく広がったのがこの夏の特徴と言えるだろう。


 

今年4月から8月までに発売されたコーラは以下のとおり(発売日順)

発売日
メーカー
商品名
1
4/26
日本コカ・コーラ
コカ・コーラ ゼロフリー
2
5/?
クリエイティブコンパス
熊出没注意 宗谷の塩コーラ
3
5/10
木村飲料
しずおかコーラ
4
5/25
アサヒ飲料
グリーンコーラ
5
5/25
サントリーフーズ
ペプシバオバブ
6
6/1※
キリンビバレッジ
キリンコーラ
7
6/22
サントリー
ペプシストロングショット
8
7/17
日本コカコーラ
ファンタファンミックス コーラ+オレンジ
9
8/3
サッポロ飲料
ブルーコーラ

※キリンビバレッジがキリンコーラを正式商品化した日。試験販売は09年7月より 

 

液色比較(相対)

 

コーラ多様性の時代

長くコカ・コーラとペプシ、そしてそのジェネリックによって占められていた日本のコーラ市場。しかし今年各メーカーが創意工夫を凝らしたコーラを発売した結果、我々消費者はさまざまなコーラを選択できるようになった。この風潮をコーラ白書は歓迎したい。

このブームが一過性に終わらず、日本のコーラ文化の多様性につながることを期待したい。

 


 

(註1)Bev-TECH 飲料産業セミナー 「三ツ矢サイダー 126年目の挑戦 〜三ツ矢サイダーオールゼロ〜」 (2010年5月21日開催) より

(註2)ここでは人工甘味料を使っていないコーラをレギュラーコーラと定義する。